今日も暑くなりそうな晴天の朝,9時に19名の参加者が四万十町窪川「あぐり窪川」に集まった.担当から簡単に今日のコースの説明があった後,早速7台の車に分乗して,目的地に向かった.目的地は一の又渓谷温泉の奥にある市ノ又渓谷風景林という自然林である.この風景林は,面積52haに及ぶ天然林で温帯性の針葉樹と常緑広葉樹が混生している四国の中山間地域でまとまった天然林が残っている貴重な林である.7台の車は美しい四万十川の流れを左に眺めながら順調に進み,10時に目的地の風景林入口に着いた.歩き始めると早速ヒナノシャクジョウが登山道に咲いていた.ヒメミヤマスミレやコミヤマスミレが点々と生育している場所もあった.一見何もなさそうな林床にもよく見ると小さな植物が結構たくさん生育しているのに気づかされる.樹木を観察したり林床にじっと目を凝らしたりと,上を見たり下を見たりで本当に忙しい.樹木は種類が多く,しかも気になる大木が次々に出現し,そのたびに双眼鏡ではるか上部の葉を見定め同定するということになった.周遊コースの登山道はかなり荒れてはいたが,それだけ自然状態に近いということにもなり面白かった.ツゲモチやケケンポナシ,ミズキ,ツガ,トキワガキ,ヒメシャラなどの大木があった.けれども,林床にはサカキ,ハイノキ,イヌガシなどの小低木も非常に多かった.ヒサカキやセンリョウが多いのも特徴だと思った.またこの山の目玉はヒノキの大木である.胸高直径が1mを超し,高さ30~40mはある真っ直ぐなほれぼれするような天然ヒノキが散在している一画があり,その価値の大きさを思うとわけもなく嬉しくなった.いつの日か姫路城の天守閣を支える通り柱を取り替えるときはこのヒノキなら文句なしだ!!などと考えたりした.このヒノキの生育している場所の少し手前の谷で昼食をとった.そこにはホオノカワシダもあったし,ヒメミゾシダも見つかった.ヒメミゾシダの発見者は谷本さんで,さすがはシダの専門家である.私にとっては初めて見るシダであった.また長野県から参加の藤田さんがオオチャイロハナムグリという昆虫まで見つけてくれて,全員がその希少な昆虫を観察でき良い思い出となった.ヒノキの巨木を眺めた後は下山コースとなり,かなり荒れた道を少し迷いながらも無事,元の風景林入口に1時30分頃帰ることができた.
2時頃,風景林区域を去り,帰路に就いた.そして轟崎の道の駅下の河原に降り,河原の植物を観察した.清流の流れる広い河原の岩の上を伝いながら観察した.シチョウゲの花が清流に負けないくらい清らかな清楚な花をたくさん咲かせていた.実のついたトサシモツケや固い蕾のナガバシャジンもあった.折から雷がゴロゴロ鳴りだしたが,雨は降らずに観察できた.スダレギボウシの花が咲いていた.ノグルミやナラガシワの木も見えた.連日猛暑の続く時期での観察会であったが,多くの感動に出会えた一日となったとしたら担当としては嬉しい.誰かが「暑くてもやっぱり出てこにゃーいかん」と言っていたが,その言葉が担当にはとても嬉しく聞こえた.みなさん暑い中本当にお疲れ様でした. (文:宇田英一 写真:鴻上泰)